(お前财産だけでなく、身体も感情も全てわたしのものよ、隼人。さあ、もっともっとわたしに溺れるがいいわ……)
(终わり)
奈良岛礼司は、勤务先のビルに正面から入ると、ゲートに社员カードをスキャンさせ、上りのエスカレーターに乗った。始业までにはまだ若干の余裕がある。彼の勤める大凑贸易は、さる大手企业グループの伞下で、その名の通り海外との取引を手広く行う、大贸易商社だ。
ふと、顔を挙げると、奈良岛の心臓が跳ねた。彼の数段前にある人物が乗っている。それは短めのタイトスカートから、黒のストッキングをまとった脚を伸ばし、同じく黒いスーツをまとった女性社员だ。その后ろ姿に、奈良岛は见覚えがあった。
タイトスカートは、目の前の女性社员のヒップの轮郭を浮き彫りにし、フォーマルな服装だというのに、何だか淫靡だと奈良岛は思う。彼にスーツや制服に対するフェティシズムは特にないのだが、目の前にいる女性社员は、奈良岛にとっていわば憧れの存在だった。
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「お、おはようございます」
少しどもりながら、奈良岛は勇気を出して挨拶をする。
すると前の人物は首を后ろへと巡らせ、
「あら、奈良岛君。おはよう」
と返した。
(やっぱり、柏原さんだ)
目の前の女性社员は、奈良岛の予想通り、社长秘书の柏原爱理だった。円らな瞳に、薄っすらとしたナチュラルメイクが似合っている。美人というよりも可爱らしい顔立ちだ。
「今出社したところみたいね」
「ええ、そうなんです。柏原さんも」
「そうね。今日は重役会议もないから、何时もより遅いかな」
他爱もない话も、奈良岛にとっては愉しかった。
そもそも、柏原爱理は秘书课、そして奈良岛は経理课の主任と、所属先は违っている。また、奈良岛の方が入社が一年遅かった。そんな本来なら大企业内で接点がない筈の二人だが、有志が企画した同年代の合同亲睦会の席で知り合うことになったのだ。
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一目见た途端、奈良岛は柏原のことが気になって仕方がなかった。
柏原には、様々な噂が飞んでいた。それは、実际噂の域を出なかったが、そのどれもが、奈良岛の心をざわつかせた。
柏原爱理は、重役の爱人らしい。
柏原爱理は、社长の爱人らしい。
いや、同じグループ伞下の别の会社の取缔役と関係がある。
また、最近勃兴してきた企业の、若手経営者の恋人である。等々……。
彼女のことを気にするにつれ、そうした噂が自然と耳につくようになったのだ。
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